デザインシンカー、そしてワークショップデザイナーの飯伏です。
「デザインシンカーってなんだ」と思った方は、前回のブログをぜひご覧いただけるとうれしいです! techblog.insightedge.jp
さて、今回はワークショップについて書いていきます。 というのも、昨年ワークショップデザイナー育成プログラム - 青山学院大学(通称:WSD)を受講し、ワークショップを学び直した結果、タイトルにある「ワークショップとは、付箋とペンを持って集まればいいわけじゃない」ということを改めて伝えたいと想ったからです。
この想いと内容については、実はWSDの最終課題でまとめていまして、今回はそのレポートを加筆更新してお送りします。 *1
ワークショップとは何か?
普段の仕事の中では「AIを使う方法を教えてほしいのでワークショップを…」「技術活用のアイデア出しをワークショップで…」「組織の意思疎通を図るためワークショップを…」といった相談から、ワークショップ実施を検討することが多いです。
それらのワークショップとは「付箋とペンを用意して、フリーディスカッションすればOK」と考えている方が多いかもしれません。ワークショップの定義に正解があるわけではなく、それも一つの答えと言えます。
しかし、ワークショップは実はもっと奥深いものなのです。筆者がワークショップデザイナーとして学び、実践する中で考えた「ワークショップとは、付箋とペンを持って集まればいいわけじゃない」を題材に、今回はワークショップのゴール・目的とは何か、ワークショップを構成する場面は何か、参加者視点とデザイナー視点から見たワークショップの特徴や専門性とは何かを説明します。
なお、ワークショップについては、いろいろな先生方が書籍や講義でご説明くださっています。それらを学びつつも、ここではあくまで飯伏が仕事をする中で考えるものとして説明します。そこからワークショップの本質と魅力の一端でも伝われば嬉しいです。
ワークショップのゴール・目的
まず、ワークショップのゴール・目的について説明します。
ワークショップ当日のゴールは、情報やノウハウを一方的に伝達するだけではなく、参加者同士の会話や作業をとおして、次の3つを実現することと考えています。
- 発散:特定のテーマに対する新たな気づきを得たり、アイデアを発想したりする
- 収束:参加者から持ち寄られた意見をまとめたり、重要な事柄を抽出したりする
- 合意形成:発散や収束の成果を「みんなで考え出した、その場での答え」として合意する
また、ワークショップの目的は、前述のような“ワークショップ当日のゴール”の達成だけではなく、その後の(個人や企業の)判断や行動や習慣に、より良い変化を起こすことと考えています。
冒頭のWSDで学んだ言葉を用いると、ワークショップは「〇〇を創ることで(活動目標)、〇〇を学ぶ(学習目標)」という2つの目標を持っています。活動目標が非日常的かつ内発的な楽しさを持つものであり、学習目標が参加者にとって日常的に意味をもたらすもの(他者理解、合意形成、仲間づくりなど)です。
具体的なゴール・目的は依頼内容などで異なるものの、当日とその後、活動目標と学習目標といった2つの視点が重要になっています。
参加者視点:ワークショップの特徴
次に、ワークショップに参加する側から見た特徴を整理してみましょう。
1. 参加・体験・相互作用
ワークショップでは、プログラムの進行役と活動主体の参加者がいるだけで、一方的に教える先生や講師はいません。そのため、自ら主体的にプログラムに【参加】していく姿勢が必要です。
また、言葉を使って頭で考えるだけでなく、①やってみる②観てみる③考えてみる④まとめる・次を考える、という循環した【体験】での学びを重視されます。
そして、体験を共にしたり、喧々諤々しながら意見をすり合わせたり、感じたことをシェアリングしたりすることで他者から学びあう【相互作用】が起こります。
情報を受け取るだけの講義とは異なり、参加者が自ら意見を出し合い、手を動かし、他の参加者と協力・衝突しながら創造する。この過程が、新しい学びを生むのです。
2. 非日常、よろこびがある
ワークショップでは、普段とは異なるメンバーや関係性、テーマやアプローチ、環境や状況で取り組む【非日常】が大切です。
たとえば、普段とは異なるメンバーや関係性で取り組んだ場合、同じ会社の中でも様々な視点や価値観に触れることができたり、日頃は隠れている「実は想いが違っていた」「意外に考えが同じだった」などに気づけたりすることができます。
他にも、普段とは異なるテーマやアプローチとして、紙飛行機を使ったワークで社会人が無邪気に盛り上がり、自己開示が進んだ実施経験もあります。
このような、新しい発見や合意形成、日常と違う体験によって得られる【よろこび】も特徴です。
3. 日常に変化をもたらす
ワークショップの意義は、非日常の場限りのよろこびにとどまりません。参加者が得た学びを日常生活や仕事に生かし、行動や考え方など【日常に変化をもたらす】きっかけとなります。
これは、参加・体験・相互作用により、「自分たちが考えた・作った納得した答え」「自分がその答えの一部」といった当事者意識が非常に高まるためです。
デザイナー視点:ワークショップの背後にある専門性
さらに、ワークショップデザイナーの視点から、その背後にある専門性を整理します。
1. プログラムデザイン
ワークショップデザイナーは、当日の目に見える成果物だけではなく「何を学ぶか」というコンセプトから決めます。そこでの目標から逆算してメインワークを考え、前後の流れを組み立てます。
そのうえで、安心・安全性を担保するための仕掛けや、参加者の協働を増幅するための仕掛けを足し引きします。
これらのデザインによって、安心・安全な場で対話が深まり、共創や協働が促進されるのです。
2. ファシリテーション
ファシリテーターは、ただ予定していたプログラム通りに進行する存在ではありません。場の観察しながら、状態を見極め、適宜追加説明したりプログラム自体をテコ入れしたりします。
元々の目標に向かって参加者同士で自走できるような状態に持っていけるよう、リアルタイムにプログラムをその場にフィットさせていく存在なのです。
ワークショップのまとめ
参加・体験・相互作用、非日常とよろこび、日常に変化をもたらすなどの特徴があり、その価値をしっかりと発揮するためには、プログラムデザインとファシリテーションを「そこまでやるか」というくらい考え抜き、妥協せずに行う必要があります。
プロのワークショップデザイナーが準備を整えたワークショップは、参加者にとって簡単で楽しいものに見えます。ワークショップに参加する機会があれば、その裏側にある努力を感じ取りつつ、難しいことは考えずにぜひ積極的に楽しんでください!
Insight Edgeでの事例
前回のブログでも書いていましたが、ChatGPTの活用アイデアを発想するためのツールとワークショップを作っています。
具体的にはChatGPTを3系統9種類のキャラクターとして擬人化したカード=ChatGPTキャラクターカードと、それを材料に業務での活用アイデアを発想するワークショップを企画・設計・作成しました。
ワークショップとしては様々な進め方がありますが、例えば「参加者が普段やっている業務」×「すべてのキャラクター」の組み合わせを土台に、参加者全員で強制発想に取り組むことをしています。
ご興味がありましたら、ぜひお問い合わせください!

さいごに
前回のブログ時点では、テックリプログラム - Technology Creatives Programという東京科学大学・多摩美術大学・一橋大学で組成する教育プログラムの経験や学びについて記載しようと考えていましたが、これは別メンバーが書く予定なので変えました!こちらはこちらでぜひお楽しみに~。
それでは、また。
*1:WSDの講義・授業を受けて学んだこととしてまとめているため、刈宿先生や中尾根先生など、様々な先生からお教えいただいた言葉・用語を使わせていただいています。