こんにちは!Insight Edge リードコンサルタントの山田です。本記事では住友商事グループの生成AI活用における直近の取り組みをご紹介できればと思います。過去に2023年9月の記事でもご紹介していますが、そこから約1年が経過し、Big techを中心にグローバルでの凄まじい技術進展もさることながら、住友商事グループでの活用度合いもかなり高まってきています。是非最後までご覧いただけると幸いです。
(ちなみに本記事が弊社テックブログの100記事目らしいです。めでたい!)
総合商社×生成AI活用の2年半
2023年3月にGPT-4がリリースされて以降、Insight Edgeが手掛けるプロジェクトのうち生成AI関連の案件数は継続して増え続けています。住友商事ではグループ内の生成AI CoE組織として「SC-Ai Hub」が2023年5月に発足し、Insight Edgeはそのコアメンバーとして、これまで累計相談140件以上、プロジェクトも40件以上実施してきました。
グループ事業会社の経営層や担当者と日々接する中でも、生成AI活用に関する話題や相談はとても多く、これまで経営層・役職員向けのセミナーやワークショップも多数実施してきました。特に、経営トップが生成AI活用に強くコミットする事業会社も増えており、1年前とは比較にならないほどの変化を実感しています。
昨年度は多くの企業がPoCに取り組むフェーズでしたが、今年度はPoCを超え、本格的なビジネス価値の創出を目指す動きが加速しています。特に、個人レベルの生産性向上を目指すアプローチから、業務特化型の生成AIツールの開発へと進化している点が大きなポイントです。
生成AI活用に関する最近のトレンド
住友商事グループだけでなく日本企業全体で生成AI活用度合いは高まっています。PwC Japanが公開している「生成AIに関する実態調査2024春」によると、自社で生成AIを活用中・推進中・検討中の企業の割合は24年春で90%を超えており、約20%だった1年前と比較すると、企業への浸透レベルは着実に高まっています。
住友商事グループでも体感として同等以上の各社関心度ですが、個人的な直近のトレンドとしては以下2点あるかなと思います。
業務効率化のためのRAG活用は一巡、事業開発や価値創造のユースケース創出にシフト
後述の事例紹介でも触れますが、生成AI活用のユースケースは個人レベルの業務効率化から始まり、徐々に組織・ビジネスレベルでの活用にシフトしてきました。また、組織・ビジネスレベルでの活用においては、社内情報も組み合わせて回答を生成するRAG(Retrieval-Augmented Generation)の活用が多くを占めています。
(余談ですがRAGという言葉も、デジタルやITを主務としていないビジネスサイドでも理解している方が増えてきており、マス層への浸透を実感しています)
このニーズは今後もしばらくは継続し、キャズム理論でいうアーリー/レイトマジョリティにも一気に普及していき、標準機能として各業務に組み込まれていくと思います。
一方で、イノベーターやアーリーアダプター層においては、RAGによる単なる情報検索のようなユースケースは良くも悪くも新鮮さが無くなり、社内の業務効率化に閉じない、事業開発や価値創造のユースケース創出にシフトしていると感じます。例えばコンタクトセンター業務の場合、生成AIによる顧客問合せ対応の半自動化/効率化、収集したVoC(Voice of Customer)の分析、そこから見える改善アクションの提案といった、業務プロセス全体にわたって生成AIを適用することで、顧客満足度向上や業務品質向上が期待できます。さらにはそれをトータルパッケージとできると、それ自体が新しいサービスになる可能性もあります。
業務プロセスの一部分に対する活用から、今後は業務プロセスやビジネスモデル全体への適用、ひいては最初から生成AIベースでの業務設計やBPRなども増えてくると思われ、より広範な活用が進んでいくと思います。
PoCフェーズから、実現効果創出のフェーズ
Insight Edgeではこれまで数多くのプロジェクトを実施し、住友商事や事業会社向けに複数の生成AIシステムを本番導入しています。昨年度までは、ある意味で先端技術としての生成AIをいちはやく業務に取り入れることにも一定の価値があり、それによるポジティブな効果を期待して導入を進めてきた面も一部ありますが、今後は導入後の定量的な実現効果も示していくことが経営層からより求められるようになってきていると感じます。
ユースケースによっては定量効果を試算することが難しいケースもあり、いかに数字としてビジネスインパクトを生み出していくかが重視されるようになっていると思います。
住友商事グループの生成AI活用
これまで実施してきたプロジェクトを一部ですが類型化したものが以下の図になります。縦軸に個人レベルの用途か業務/ビジネスレベルでの用途か、横軸に業務効率化か新規ビジネス創出かでユースケースをプロットしています。当初は下側の個人レベルの用途からはじまり、次第に上側にシフトしてきています。具体的な活用事例もいくつかご紹介します。
Copilot for Microsoft 365のグローバル全社導入
個人単位での生成AI共通インフラとして、住友商事ではCopilot for Microsoft365を日本企業で初めてグローバル全従業員向けに8.800ライセンスを配布しました。社内での活用促進や啓蒙活動といった、入れて終わりではなく、日常的に使ってもらい、効果を創出していくための各種施策や伴走支援等も、住友商事のIT企画推進部やMicrosoft等と連携しながら取り組んでいます。
一方で、Copilot for Microsoft365は強力なツールであるものの、あくまで汎用ツールの位置づけであり、それだけでは完結しない複雑な要件や業務特化のソリューションが必要なケースも多くあります。そのようなユースケースにおいては、Insight Edgeが企画構想から参画し、技術検証やプロトタイプ開発を行い、本番導入まで一気通貫で支援しています。
住友商事グループではこのような特定用途にしたバーティカル(垂直)な活用と、従業員が日常業務で利用するホリゾンタル(水平)の2つの観点で生成AI活用を推進しており、特にInsight Edgeが注力するバーティカル観点のユースケースをいくつかご紹介します。
社内FAQやナレッジDBの共通UI化
生成AIの代表的なユースケースの一つに、RAGによるFAQチャットボットや業務ナレッジデータベース構築があります。Insight Edgeでもこれまで複数の生成AIベースの情報検索チャットボットの構築を行ってきました。一方で、クラウドサービスやOSSを含め、従来よりも簡易にRAGシステムを構築できるようになってきており、エンジニアを介さずともビジネスサイドで簡易なRAG構築ツールを提供すれば、業務特化型の生成AIツールの開発がより加速するのではないかと考えています。
また、元々社内には各部署がそれぞれ用意・提供する様々なFAQチャットボットが点在しており、ユーザーから見るとどのチャットボットがどこにあるかが分かりづらいことが課題となっていました。そこで、それらチャットボットを共通UIから利用でき、ユーザーは適切なチャットボットを選択あるいは自動振り分けにより質問ができる仕組みも検討しています。
簡易にRAGシステムを作る機能と、それを共通UIで全社員が利用できる機能を持った基盤システムの構築を進めています。
経営の意思決定支援ツール
総合商社のビジネスモデルとして、多角的な事業ポートフォリオの構築とグローバルでの事業投資が肝であり、他業界と比較して投資機会が非常に多く、投資対象も多岐にわたります。それゆえ投資判断を行う全社投融資委員会も頻繁に行われており、社内には過去の委員会における数十年分の議事録が蓄積されていました。言うなれば住友商事グループの投資活動のエッセンスが詰まっており、この情報を生成AIで有効活用することで、投資意思決定のサポートツールができないかと、検討を開始しました。
23年度からリスクマネジメント組織とPoCを実施し、①議事録の検索、②議事録内容の深堀、③議事録の論点抽出の3つの機能を有するプロトタイプを開発し、実用性検証を行いました。ユーザートライアルを経て本番導入が決まり、現在商用システムとしてのUI/UXの磨き込みも含めたシステム開発を進めており、25年1月にリスクマネジメント組織向けにリリース予定です。今後も継続的な機能拡張を予定しており、意思決定支援ツールとしてブラッシュアップし続けていきます。
意思決定支援の活用ではほかにも、日々世界中で生じる地政学上のイベントに対して、関連する社内外のデータソースを収集し、カントリーリスクレポートを自動生成するシステムも開発・運用しています。このような情報のキュレーションとレポート生成も、生成AIの代表的なユースケースかつ、総合商社の業務と相性が良いものの一つです。
今後の展望
現在Insight Edgeが力を入れている領域の一つがAIエージェントです。AIエージェントは与えられた目標やタスクの達成に向けて、状況に応じて高度な推論をしながら自律的に意思決定を行うことができます。単一ないし複数のAIエージェントを組み合わせることで、例えば前述の投資の意思決定支援の取り組みにおいては、過去議事録の情報抽出に加え、投資ポートフォリオの最適化やリスクシナリオ分析などにも応用できます。
また、社内の投資判断に関する各種ドキュメントや投資規律などを参照し、財務、人事、ESG、IT、マーケティングなどの各種専門家エージェントを互いに自律的に思考させることで、投資判断時における有用な示唆出しをする仕組みができるかもしれません。
AIエージェントは技術的な磨き込みはもちろんですが、適用するユースケース選定や深い業務理解に基づくエージェント設計が最も重要と感じます。その意味で、多種多様なビジネスドメインを持ち、それぞれに現場がある総合商社においては、業務課題に立脚し、その業界特化のAIエージェント開発がしやすい環境にあると思います。総合商社のビジネスと生成AIを掛け合わせることで、業界および産業界全体に大きなインパクトを与える取り組みを一つでも多く創出するべく、これからも頑張っていきたいと思います。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。生成AIまわりの技術進展はとにかく早く、すぐに知識や事例も陳腐化してしまいますが、最新技術は常に追いかけながら、それをどうビジネス実装していけるかを常に考えていきたいと思います。
総合商社という広大なビジネスフィールドで、生成AIをはじめテクノロジーで新たな価値を創出することに興味がある方は、カジュアル面談から是非お気軽にお問合せいただければと思います。