総合商社ビジネスにおける生成AI活用

こんにちは!Insight Edgeコンサルタントの山田です。最近体重増加が著しく、16項目の計測が可能なAnkerの体重計を購入したのですが、毎朝データを取り、日々の変化をグラフ化することでダイエットのモチベーションが維持できています。改めてデータの可視化の重要性を実感しているところです。

さて、この記事では例にもれず生成AIをテーマに、総合商社における生成AI活用についてまとめたいと思います。Insight Edgeは住友商事グループの内製エンジニア組織ですが、グループ全体のCoE組織である「SC-AI Hub」の中核を担っており、生成AI関連だけでも現在数十件のプロジェクトを推進しています。住友商事グループの生成AI活用に向けた取り組みを一部紹介しているので、是非ご覧ください。

生成AIのビジネス活用

生成AI技術のアップデートのスピードはすさまじく、毎日どこかで新たな発表がされているような状況です。同時にビジネスシーンにおいても紙面で生成AIの文字を見ない日はないほど、生成AIの導入・活用が当たり前となっています。

私が現在担当するプロジェクトも、6~7割が生成AI関連となっており、実感としても業界業種問わず活用への機運が急速に上昇している印象があります。 8/4付の日本経済新聞の記事では、調査対象とした約100社のうち7割の企業が具体的な労働時間削減の効果を見込んでおり、社員の生産性向上に寄与すると期待されています。同時に、機密情報漏洩や著作権侵害など懸念される事項もあり、各社導入とルール整備を急速に進めているフェーズです。

生成AIで企業の7割時短 100社調査 - 日本経済新聞

総合商社が生成AI活用するインパクト

業界業種を問わず大きなインパクトをもたらしている生成AIですが、実際に住商グループの生成AI活用をリードする立場としてプロジェクトを進める中で、総合商社は活用ポテンシャルが特に大きい業態の一つと感じています。その理由は大きく以下2点です。

ビジネスドメインの多様性

ご存知の通り総合商社は、資源化学品、エネルギー、輸送機、インフラ、消費財、小売り、不動産、金融、IT、物流、ヘルスケア等、多岐にわたるビジネスを展開していますが、生成AIの実装という観点で見ると、それぞれのビジネスで共通なユースケースと業界特有のユースケースがあります。情報検索や高度なタスクの自動化など、共通ユースケースの実装が比較的先行しますが、業界特有のユースケースも、着眼点次第で活用方法は多岐に渡り、ブレイクスルーをもたらす可能性があります。多様なビジネスドメインにおいて同時並行で活用アイデアを探ることができるのは大きな強みと感じます。

蓄積された豊富な情報

上記に派生するポイントでもありますが、総合商社は多数のステークホルダーやマーケットから日々膨大な情報を収集しており、社内に長年のナレッジとして蓄積されています。これら情報を活用し、また時には業界を横断したデータ活用により、新しいビジネスアイデアを生み出すことができます。また、過去の情報からビジネスの成功要因や失敗要因を把握し、新しいビジネスの成功確度を高めることも期待できます。(後述の意思決定支援ツールの事例にも通じます)

住友商事グループにおける活用事例

特にビジネスドメインの多様性による強みは大きいと感じており、社内情報検索や問い合わせ対応など代表的なユースケースはもちろん、業界特有のペインポイントを生成AIで解決するようなユニークな活用方法があるはずで、そのアイデアやニーズにいち早くアクセスできる点は非常に強みと感じます。

一方で、ビジネス面・技術面の両輪での試行錯誤がきわめて重要となるこの領域において、ビジネスアイデアを高速で形にしながらトライ&エラーができる環境も同時に重要であり、この点はInsight Edgeが内製エンジニア組織として価値を発揮しているポイントでもあります。

以降では、ビジネス現場とInsight Edgeがともに試行錯誤しながら取り組む具体事例をいくつかご紹介します。

生成AIのユースケース分類

社内情報検索

LLM自身が持つ情報だけでなく、企業内のクローズドなデータを組み合わせて、企業や部署専用の情報検索ツールとして活用する方法で、企業利用における最も代表的なユースケースの一つです。RAG(Retrieval Augmented Generation)などが有名な手法です。あらかじめ参照したい社内外の情報をデータベース(ベクトルストア)に用意しておき、ユーザーからの質問に対してベクトルストアの中で類似度の高い文書を検索し、その文書を質問と合わせてプロンプトとして入力することで、既存のLLMだけでは回答できない質問にも精度高く回答できるようにする使い方です。

企業の規模が大きくなるほど、社則や業務ルールも膨大になり、かつ主管部署も異なることも多々あり、求める情報にたどり着くまでに時間を要することも少なくありません。本来は時間をかけるべきでない作業を削減し、より価値のある業務に時間を使えるようにすることは、生成AIを積極的に活用するべき最大の理由でしょう。

Insight Edgeでは社内情報検索ソリューションのβ版をリリースし、住友商事をはじめ、複数のグループ企業に導入するべく目下準備を進めています。

社内情報検索ソリューションの画面イメージ。住友商事の一部メンバーを対象にトライアル導入中。

問い合わせチャットボット

生成AIを活用したFAQチャットボットも、代表的なユースケースです。①の情報検索の仕組みと同様に、業務マニュアルや過去のQ&A履歴、それに対する主管部署の回答などをベクトルストアに用意しておくことで、従来のルールベースのAIチャットボットよりも回答精度の高いFAQシステムができることが期待できます。

このユースケースも、確認すべき業務ルールが多いほど、また業務遂行に際し社内ルールだけでなく、法令や業法など一般的なルール順守が求められる場合にも、一次回答を迅速に得るための強力な武器になりえます。(法令や業法など参照する場合は正確性が求められるため、ハルシネーションの理解には注意が必要で、ユーザーのリテラシーが問われます)

特に人事や総務、法務、情シスなど、コーポレート機能を担うメンバーの問い合わせ対応工数を大きく削減できる可能性があります。

VoC(Voice of Custmor)分析

VoC分析は、顧客の意見やフィードバックを収集、分析することで、顧客満足度向上や製品・サービス改善を目指す手法です。toCビジネスも数多く手掛ける商社では、VoC分析の重要性は非常に高く、ここにも生成AIは活用できます。

日々寄せられる大量のVoCをカテゴリごとに分類・要約することはもちろん、そこから示される顧客感情の示唆、ポジネガ分析、さらには改善に向けたアクション提案などが可能となります。

従来のAI技術でもある程度のVoC分析は可能でしたが、例えば感情分析において業界や企業ごとに判断基準が異なり、VoCの内容に対して、一概にポジティブかネガティブかの判断が難しい場合がありました。一方生成AIでは、プロンプトに判断基準の例を示すことで、業界や企業ごとに重視する観点を反映した分析が可能となります。専門知識や経験が乏しくても、筋のいい分析をするためのサポートツールになりえます。

経営の意思決定サポート

総合商社における生成AI活用の本命の一つが、経営判断における意思決定支援だと思います。総合商社はトレーディングから事業投資/事業経営へとビジネスを拡大してきましたが、社内には投資判断を行うための調査資料や分析レポート、意思決定にあたってのマネジメントの所感・コメント等が残されています。

これらを活用し、新規投資案件など意思決定が必要な場面において、過去に類似の案件がなかったか、その際にはどのような観点やリスクが議論され、結果としてどうなったかなどの情報を生成AIにより抽出・要約することで、意思決定において重要となる情報提供が可能となります。 決断までをAIに委ねる未来は恐らく来ることはないですが、意思決定における強力なサポートアイテムになるのではと期待しています。

Insight Edgeでも住友商事のリスクマネジメント部と連携し、意思決定支援ツール開発のプロジェクトを進めています。

意思決定支援ツールを活用した質問例

これら事例は、下記メディアでも取り上げて頂いているので、よければこちらもご一読ください。

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まとめ、今後の展望

総合商社は過去100年にわたって、トレーディングから事業投資、事業経営と、常に時流を読み柔軟にその姿を変えてきました。そして現在においては、先端テクノロジーをいかにビジネスに適用し付加価値を創造できるかが強く求められています。

生成AIの登場という、これまでにないエポックメイキングな技術革新の中においても、常に市場を先取りし新しいビジネスを開拓し続ける住友商事グループの内製エンジニア企業として、Insight Edgeもワンチームとして生成AIの社会実装に貢献していきたいと思っています。