エンジニア集団の中に潜む非エンジニアの生態
はじめまして。Insight Edgeセールス・コンサルティングチームで契約業務や売上管理を担当している非エンジニアの長尾です。
周りを見渡せば、AIやデータサイエンスの博士号を持つメンバーや、大規模なシステム開発を率いてきた猛者ばかり。そんな技術のプロフェッショナル集団の中で、私はコードを書かない「非エンジニア」として働いています。
私の周りでは、日常会話で「fetchするためのMCPサーバを...」や「LLMによるペルソナ生成のプロンプトが…」といった言葉が飛び交います。それを聞きながら「今はポジティブな話?それともネガティブな話…?」と、話の趣旨すら掴めないことも。
今日は、そんな私が専門外の領域でいかにして価値を見出し、課題解決に挑んだのか。そして、ローコードツール「Dify」を使い、まずは自社の案件検索を効率化するAIツールを自力で作り上げた話をさせてください。これは、私個人の奮闘記であると同時に、私たちの会社Insight Edgeが持つ「やってみる」という文化の証明でもあります。
- エンジニア集団の中に潜む非エンジニアの生態
- 1. 「あの情報、どこだっけ?」- 日々の業務に潜む巨大な時間泥棒
- 2. やってみる、から始まった挑戦
- 3. ゼロからのAI開発ジャーニー:非エンジニアが挑んだ3週間
- 4. コードを書かない私が描く、次の景色
1. 「あの情報、どこだっけ?」- 日々の業務に潜む巨大な時間泥棒
私の主な業務は、お客様との契約締結や進行中のプロジェクトの売上管理です。一見、華やかなデータ分析やAI開発の世界とは少し離れた「守り」の領域かもしれません。しかし、この業務には大きな課題が潜んでいました。それは、「情報のサイロ化」です。
「あの案件で使った契約書の文言、今回も流用できそうだな…」 「去年とほぼ同じ内容の案件、プロジェクト名は何だったっけ…」
こうした情報を探すたびに、社内のストレージ、チャットツールなど、様々な格納先を何十分も彷徨う日々。情報は確かにあるのに、必要な時にすぐに見つけられない。この“時間泥棒”は、私の生産性を着実に蝕んでいました。
エンジニアたちが最新技術で顧客の課題を解決している横で、私は社内の情報検索という原始的な課題に頭を悩ませていました。この状況を、何とかしたい。それがすべての始まりでした。

2. やってみる、から始まった挑戦
課題を嘆くだけでは何も変わりません。Insight Edgeに入社してまもなく1年、この会社で見聞きしてきたことを糧に、自ら行動を起こすことを決意しました。幸い、当社には職種や経験を問わず、課題意識を持って新しい挑戦を奨励する「やってみる」という素晴らしい文化が根付いています。
まず頭に浮かんだのは、「ChatGPTのようなAIに、社内案件のことを聞けたら最高じゃないか?」という素朴なアイデアでした。
しかし、すぐに壁にぶつかります。ChatGPTは、当然ながら社内の機密情報や最新のファイルを知りません。次に、社内情報と連携したGoogleのAIエージェントを試してみましたが、あらゆる情報ソースを参照するがゆえに、近いですが異なる情報を拾われることが多く私が求める粒度と精度での回答は得られませんでした。
私が欲しいのは、博識なAIではなく、「ウチの会社の事情」に詳しいAIアシスタントだったのです。
この課題を解決する鍵は「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という技術にあると突き止めました。これは、AIに外部の知識(今回の場合は社内ドキュメント)を「参照」させながら回答を生成させる仕組みです。非エンジニアの私にも分かるように言うなれば、「分厚い資料集を横に置き、常にそれを見ながら質問に答えてくれるサポーター」といったイメージです。
RAGの概念は理解できても、実装はできない。そんな私の前に現れたのが、ノーコード/ローコードでAIアプリを構築できるプラットフォーム「Dify」でした。これなら、私でもAIアシスタントを作れるかもしれない。暗闇に光が差した瞬間でした。
3. ゼロからのAI開発ジャーニー:非エンジニアが挑んだ3週間
Difyと出会ってからの行動は早かったです。「意外とすぐにできるかも?」という淡い期待を胸に、AIツール開発に着手しました。

ステップ1:AIに知識を叩き込む(ナレッジベースの構築)
まずはAIの「資料集」となるナレッジベースの構築です。ソースとなるファイルから機密情報を削除し、Difyにアップロードしていきます。しかし、すぐに最初の壁にぶつかりました。取り込んだ情報をもとに質問しても、まともな答えが返ってこないのです。
原因を調べると、AIが正しく読み込めるようにデータを「成形」する必要があることに行き着きました。1行目をヘッダーにする、セルの結合をなくす、不要な空白を削除するなど、エンジニアにとっては当たり前かもしれないルールに悪戦苦闘。ひとつひとつデータを整え、無事にナレッジベースを完成させました。
ステップ2:AIとの対話方法を教える(プロンプトエンジニアリング)
次に、AIへの指示、つまり「プロンプト」の設計です。「あなたは、提供されたデータを分析する優秀なアシスタントです」といった役割設定から、「データにない情報や推測で回答してはいけません」といった禁止事項(ガードレール)まで、試行錯誤を繰り返しました。このチューニング作業は、まるでゲームでキャラクターを育成するような面白さがあり、先人たちが築いた定石(ベストプラクティス)を参考にすることが成功への近道である点も似ています。
ステップ3:ひたすら試し、改善する
プロトタイプが完成してからは、あらゆる角度から質問を投げかけ、回答の精度を検証しました。生成AIは数値を扱うのが少し苦手、といった特性もこの過程で理解しました。精度が悪い部分があればステップ1と2に戻って修正を繰り返し、最終的に、求める粒度の質問に対して約90%の精度で回答してくれるツールが完成しました。
もちろん、専門的な壁にぶつかることもありました。そんな時は、社内のエンジニアに「ここについて教えてください!」とチャットで助けを求めます。すると、「Difyは使ったことないけど、ちょっと待ってて」と言いながら、数分後には的確なアドバイスが返ってくる。挑戦の過程で生まれた壁は、誰もが快く一緒に乗り越えようとしてくれる。これも、この会社の「みんなでやる」という文化の現れだと感じています。

4. コードを書かない私が描く、次の景色
約3週間の試行錯誤の末、ついに案件情報検索AIが完成しました。
これまで週に数時間かかっていた情報の捜索は、今では1件あたり数秒で完了します。当初の目的だった「業務効率化」と「情報のサイロ化改善」は、無事に達成されました。しかし、得られたものはそれだけではありません。自分でものづくりのプロセスを経験したことで、「次はこんなこともできるかも」と、新たなアイデアが次々と湧いてくるようになったのです。
この経験を通じて私が学んだのは、課題解決の手段は、必ずしもコードを書くことだけではない、ということです。非エンジニアだからこそ見える現場の課題があり、非エンジニアでも使えるツールがある。そして、その挑戦を支えてくれる仲間と文化がある。
Insight Edgeは、AIやデータという最先端技術を駆使して、お客様のビジネスと世界を「Re-design」することを目指す会社です。私の小さな挑戦は、その壮大なミッションのほんの一端かもしれません。しかし、現場の課題に深く潜り込み、テクノロジーを武器にそれを解決するという点で、本質は同じだと信じています。
もしあなたが、私のように専門外の領域で自分の価値をどう発揮すべきか悩んでいるなら、思い出してください。あなたの視点こそが、ブレイクスルーの鍵になります。 なぜなら、あなたは誰よりもその課題の「解像度」が高い当事者だからです。現場の人間だからこそ、「これじゃない感」のある片手落ちの効率化に留まらず、「こうあるべきだ」という理想から逆算して根本的な解決策を追求できます。
今の時代、その理想を現実にするための武器は、驚くほど身近な場所にあります。大事なのは、「誰かがやってくれる」のを待つのではなく、自らが最初の実践者になるという「やってみる」勇気です。 その一歩が、目の前の課題を解決するだけでなく、あなた自身の「やってみたい」という新たな景色を見せてくれるはずです。