はじめまして。Insight Edgeで営業を担当している塩見と申します。
普段はBtoBの領域で活動していますが、今回は私が個人で取り組んでいるソーシャルビジネス事業について、その立ち上げプロセスと生成AIの活用術を一つのテックブログとしてまとめたいと思います。
この活動は、社会貢献を目的としたビジネス、いわゆるソーシャルビジネスです。きっかけは、2024年の1月から4月にかけて参加した、ボーダレス・ジャパン社が運営する「ボーダレスアカデミー」でした。ここでは社会課題を解決するための事業プランを練り上げ、多くの起業家の方々と壁打ちを重ねながら、アイデアを具体化する訓練を積みました。
現在、そのプランを実行に移すフェーズにあり、その過程でバイブコーディングや各種生成AIツールを駆使しています。ランディングページ(LP)やプロモーション動画といった複数のクリエイティブを制作しましたが、これらはすべて私一人で、1〜2ヶ月という短期間で完成させました。本記事では、その具体的な取り組みをご紹介します。
- 社会課題としての「AIデバイド」と事業アイデアの着想
- アイデアを形に:生成AIとバイブコーディングで創るLPとチラシ
- 知ってもらうための仕組みづくり:広告、情報発信の効率化、そしてプレスリリース
- 「さっさと失敗する」今後の展望
社会課題としての「AIデバイド」と事業アイデアの着想
デジタルデバイドの再来、広がる生成AIの利用格差
昨今、ChatGPTをはじめとする生成AIの進化と活用が急速に進んでいます。しかし、その恩恵を享受できているのは、まだ一部の人々に限られているのが現状です。多くの記事で指摘されているように、日本全体で見ると生成AIの活用は進んでおらず、さらに「使える人」と「使えない人」の格差、いわゆる「AIデバイド」は深刻化しつつあります。
かつてスマートフォンが登場した際、同様に「デジタルデバイド」が社会問題となりました。10年以上の時を経て、今や60代、70代の方々のスマホ保有率も70%〜90%に達し、この問題は徐々に解消されつつあります。
しかし、物理的なデバイスであるスマホと異なり、生成AIは実体が見えにくいため、この格差はより一層、加速度的に広がっていくのではないかという強い危機感を持っています。このままでは、生成AIによって助かるはずの人が助からなかったり、国全体の生産性が伸び悩んだりする未来に繋がりかねません。
「声で学ぶAI教室」- 誰もが生成AIの恩恵を受けられる社会へ
そこで私が着想したのが、「声で学ぶAI教室」という事業アイデアです。
最近、タイピングすら不要な「声(音声入力)」で生成AIを操作する活用法が注目されています。音声認識の精度が劇的に向上したことと、生成AI側で誤字脱字を吸収してくれることで、声で生成AIと対話し、データ分析やLP作成、悩み相談まで、様々なアウトプットを生み出すことが可能になりました。音声入力の速度はタイピングの2〜4倍程あると言われていますので、情報入力の利便性がとても高いです。
この「声」というインターフェースは、生成AIに馴染みがない方や、パソコンが苦手な方にとって、技術的なハードルを大きく下げてくれます。この親しみやすさを起点に、生成AIの便利さを体験してもらい、一人でも多くの利用者を増やしたい。そんな想いから、地元で少しずつこの教室を始めることにしました。
アイデアを形に:生成AIとバイブコーディングで創るLPとチラシ
事業を伝えるためには、サービスの顔となるランディングページ(LP)と、地域の方々に直接届けるチラシが不可欠です。ここでは、その制作プロセスと生成AIの活用法を解説します。
音声対話からLP制作へ - Geminiとbolt.new活用
今回のLP制作では、バイブコーディングのアプローチを取り、具体的にはbolt.newというツールを活用しました。
制作プロセスは以下の通りです。
要件定義(Geminiとの壁打ち):
まず、どのような要素がLPに必要か、Geminiの最新モデルと音声で対話しながらディスカッションを行いました。プロンプト生成:
壁打ちで固まった要素を元に、bolt.new に入力するための具体的なプロンプトを作成します。UI生成と改善:
生成されたUIをベースに、細部を改善していきます。- キーメッセージの調整や説明文の修正は、再度生成AIに指示を出したり、自分で直接コードを編集したりして対応。
- ヒーロー画像は、ChatGPTの画像生成AIを使って、事業コンセプトに合ったオリジナルの画像を生成し、差し替えています。
規約などの専門知識が薄い部分も、生成AIに相談しながら文章を作成しました。このように生成AIと対話を繰り返すことで、驚くほど迅速にLPの骨格を組み上げることができました。
外部サービス連携
LP単体では完結しない機能は、外部サービスを連携させて実装しました。
授業予約・決済システム
無料で利用できる「Square」を導入し、講座の予約動線を確保。顧客接点
LINE公式アカウントをゼロから作成し、LPから友だち登録ができるように設定。信頼性向上
「本当に声で生成AIが使えるの?」という疑問に応えるため、実際に操作している様子のデモ動画をYouTubeで公開し、LPに埋め込み。
最終的には、自身で契約しているレンタルサーバーとドメインに紐づけてLPを公開。一連の作業を通して、サービス紹介ページを個人で手軽に公開できる時代になったことを実感しました。
Canvaと生成AIレビューで作るチラシデザイン
Webでの展開と同時に、起業家の先輩方からは「地道なチラシ配りが重要」と教わりました。Webに慣れていると非効率に感じがちですが、地域に根差す上では欠かせない活動です。
チラシ制作にはCanvaを活用。豊富なテンプレートからイメージに近いものを選び、キャッチフレーズや構成要素は生成AIと相談しながら詰めていきました。
ある程度形になった段階で、自分だけでは改善点が分からなくなったため、ここでも生成AIレビューを依頼。完成したチラシを画像化してGeminiに読み込ませ、デザインのフィードバックをもらいました。すると、「この要素はもっと前に出した方が良い」「こういう表現の方が響きやすい」といった具体的な改善案が多数得られ、品質を大きく向上させることができました。
知ってもらうための仕組みづくり:広告、情報発信の効率化、そしてプレスリリース
LPとチラシという「武器」が完成し、次はいかにしてそれを届けるか、という「認知・集客」のフェーズです。
学びとしての初挑戦 - オンライン・オフラインでの広告運用
今回は、効果測定と学びを得ることを目的に、小規模予算で有料広告に初挑戦しました。
オンライン広告:
Facebookアカウントからメタ広告を設定。オンライン広告からLPへ誘導します。オフライン広告:
印刷サービスの「イロドリ」に依頼し、チラシのポスティング広告を実施します。今回は、生成AIに馴染みが薄いと思われる高齢者の方が多く在住されるエリアをターゲットにしました。
この記事を執筆している段階ではまだ入稿したばかりですが、これらの結果を分析し、今後の活動に活かしていく予定です。
声で思考をストックし、発信する - Discord BotとObsidianによる知的生産術
広告のような有料施策と並行して、お金をかけずに認知を広げる取り組みも重要です。友人・知人へのリファラルや無料体験セミナーに加え、SNSでの情報発信にも取り組んでいました。
しかし、継続的な発信は簡単ではありません。そこで、発信頻度を上げるための仕組みを自作しました。
思考のインプット (音声):
Discord上に自作したBotを立ち上げ、メンションを付けて音声で思考をインプットします。生成AIによる整形・ストック:
Botが音声をテキスト化し、生成AIが内容を整形。そのテキストをGoogleドライブに自動でストックします。ナレッジ管理 (Obsidian):
GoogleドライブはナレッジベースアプリのObsidianと連携。過去のメモやアイデアとの関連性をマッピングし、知識を体系的に管理します。自動投稿 (Twitter):
ストックされた内容を、Botが自動でX(Twitter)に投稿します。
この仕組みを導入してから、発信のハードルが劇的に下がり、投稿頻度が高まり、SNS経由でのランディングページ閲覧者数が増えました。なお、こちらのツール開発もバイブコーディングで行っています。
こちらのツールは、AIマンガ家&プログラマー・けいすけさんのnoteを参考に開発を進めました。本機能を持ったDiscord Botを一部無償提供されていますので、気になる方は、けいすけさんのnoteとXを是非ご参照ください。
プレスリリース
最後に、先輩起業家のご紹介もあり、本事業のプレスリリースをPR TIMES様から2025年8月5日(火)に打たせていただくことにしました。プレスリリースは自分とあまり関係のないものと考えていましたが、実際はそんなこともなく、簡単な準備と3万円程の費用で、複数のメディアに対して情報発信を行うことが可能です。なお、PR TIMES様では、創業2年目の会社であれば、無料でプレスリリースを打つスタートアップチャレンジといった、大変有難い支援サービスもあります。
こちらのプレスリリースの文案作成に際しても、生成AIにレビューをお願いしました。文章の読みやすさや簡潔さなど、かなりの駄目出しを受けながら、文章作成を進めました。
また、今回はGemini 1.5 ProとChatGPT-4oの両モデルにレビューをしてもらいましたが、共通の指摘事項として「動画コンテンツを用意すべき」というものがありました。動画コンテンツを自身で作成した経験はありませんでしたが、こちらもチラシと同様にCanvaで制作を進めました。
さらに制作過程で、より高い品質を目指してナレーション音声も追加したいと考えるようになりました。そこで活用したのが、Google AI Studioの音声生成機能(Generate speech)です。台本を読み込ませるだけで、非常に品質の高いナレーション音声をAIに作成してもらいました。
豊富なテンプレートとAIのナレーションのおかげで、動画制作の素人でも、ある程度の品質を持ったプロモーション動画を作成できたかと思います。実際の音声はこちらのYouTube動画でご確認いただけます。
「さっさと失敗する」今後の展望
失敗から学ぶ - アジャイルな挑戦を支えるマインドセット
このソーシャルビジネスは、6月から10月にかけて「本当に成り立つのか」を検証する期間と位置づけています。
もちろん、初めての個人での挑戦なので、失敗する可能性も大いにあると考えています。私が好きなプロダクトデザイナー・秋田道夫さんの「さっさとやってさっさと失敗してさっさともう一回やる事です」という言葉があります。
さっさとやってさっさと失敗してさっさともう一回やる事です。
— 秋田道夫 (@kotobakatachi) 2023年4月2日
今回の挑戦も、この精神で取り組みを進めています。失敗しても、そこで得た学びが必ず次に繋がると考えています。まずは行動し、そこから得られたフィードバックを元に、素早く次の打ち手を考える。このサイクルを回していきたいです。
おわりに
今回は、私が個人で立ち上げているソーシャルビジネスの事例を通して、生成AIを駆使したアイデアの具体化から認知拡大までのプロセスをご紹介しました。
実は、この記事の執筆も「Aqua Voice」という音声入力ツールを使い、私が話した内容を生成AIにテキスト化してもらう形で行っています。手でタイピングするのに比べ、その速度と手軽さは圧倒的です。
「声と生成AIの組み合わせ」は、まだ一般化されていませんが、今後当たり前のワークスタイルになっていくと思われます。
この活動が、AIデバイドという社会課題に対する一つの解決策の提示となり、また、これから何か新しい挑戦をしようとしている方々の参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。