【対談】創業2年目スタートアップのCTOに色々聞いてみた

こんにちは。Lead Data Scientistの森です。

最近家で線香を焚くのにハマっています。
線香というと、お寺で焚いているような白檀や沈香の香りを思い浮かべますが、おしゃれでポップな線香のジャンルがあります。

例えば、パリのフランス紅茶専門店である、マリアージュフレール(MARIAGE FRÉRES)も、線香のラインナップを出しています。
いわゆるお寺の香りではなく、柑橘系や甘い残り香を楽しむことができます。
自分はルームフレグランスのような用途で使っています。

マリアージュフレールの "THÉ SOUS LES NUAGES"(朝霧のお茶) を焚きながら、「これがパリの香りかー(※)」と思いながら仕事をしています。
※マリアージュフレールの線香の製造元は京都。

さて、今回はヘッドレスCMSの「Newt(ニュート)」というサービスを提供する、 Newt株式会社のCTO目黒さん(以下写真)にインタビューした記事となります。
創業2年目のスタートアップで、日々試行錯誤しながらサービス開発をしている生々しい話を教えてくれました。協力してくれてありがとう!


目次


堅調にやってきた2022年

はじめに近況を聞きますが、2022年を改めて振り返るとどうでしたか?

この1年を振り返ると、2022年3月にサービスを正式リリースして、7月に有料プランのリリースと資金調達、12月にはFormApp機能をリリースしました。 ユーザー数も順調に増えていて、1700アカウントを超えています。(2023年1月現在) 爆発的にユーザー数が伸びているわけではないけど、それなりに堅調にやってきたのかなと思ってます。

◆資金調達して信頼感が高まった

資金調達おめでとう! 何か変わったこととかありましたか?

自分たちの給料が出せるようになりました笑
それは冗談として、はじめて資金調達して一番変わった実感があるのは、会社の信用が上がったことです。
会社のWEBサイトを作るためのサービスを提供しているので、いつクローズするかわからないサービスだと使ってもらうことに抵抗感があって、 リリース当初は、ちょっと使ってはみるけど、それで終わりということが多かったです。
今は徐々に信頼感が高まっていることで、本番サイトにも使ってもらえるようになってきています。 直接の営業活動はしていないけど、Twitterでの評価とか問い合わせ内容を見ると、信頼性が上がっているのは感じてます。

◆エンジニア・デザイナー中心の組織を作りたい

今後、どういう領域に投資していく予定ですか?

資金調達の際に考えていたのは、サービスの機能開発やコンテンツ拡充のための採用と、マーケティングです。 まだWEBサイトに広告を出したくらいで、そこまでお金の使い方は変わってません。
採用は、エンジニアとデザイナーを募集しています。会社のHPで募集を出しているのと、Wantedlyを使っています。
ただ、それだけだとあんまり応募が来ないので笑、 TwitterでDMしたりYOUTRUSTでスカウト打ってみる、とかの施策も考えています。



Insight Edgeでは、ビズリーチの公募記事とかを出したりしています。
将来的にはどれくらいの組織の規模感を目指していますか?

創業当初から話しているのは、サービスが大きくなっても、エンジニア・デザイナー中心の少人数で運営していくようなイメージでいます。 たとえば、Ghostという記事を書いたりするプラットフォームサービスは50人くらいで運営していて、似たような将来像を持っています。

◆マーケットは厳しいがヘッドレスCMSは伸びている

ヘッドレスCMSの業界をほとんど知らないんだけど、どういう市況感ですか?

2022年5、6月くらいから、体感としてマーケット全体の状況が悪くなっているのを感じています。 特にグロース系の新興企業の株価下落とともに、スタートアップへの投資も絞られているという話をよく聞いてます。
ヘッドレスCMS業界に絞ると、国内ではmicroCMSというシェアが大きなサービスが1社あって、2021年に資金調達していました。 海外では何社かサービスが出てきていて、ちょうど2022年にStoryblokContentstackが数十Mドル規模の大きめの資金調達をしていました。 海外もそこまでマーケットの状況はよくないと思うけど、しっかり資金調達できている分野だと思います。

Newtは使いやすさにこだわる

ありがとうございます。ヘッドレスCMSは、これから伸びてくるフェーズなんですね。 自分は素人なので、どのヘッドレスCMSも全部一緒に見えちゃうんですが、 国内でも海外でも複数のヘッドレスCMSサービスが出てきている中で、ユーザーとしてはどういうところを比較すればいいですか?

基本は似ていて、コンテンツ管理してAPIで取得するという部分は一緒です。その上で、各社違いを出しています。 例えば、機能的にAPIの取得方法がREST APIではなくてGraphQLだったり。 おそらく世界で最も有名なContentful は、エンタープライズ用途で機能が充実しています。

◆ユーザーにとっての"驚き最小"を目指したい

競合が複数社いる中で、 Newt はどういう部分で差別化しようと思ってますか?

元々ヘッドレスCMSはエンジニア向けのプロダクトですが、Newtは非エンジニアでも使いやすいサービスを目指しています。 機能的には、複数のサイトを作るときにスペースが分断しないようになっているのと、 開発メンバーが増えた場合でも、ワンスペースで開発を進められるのが推しているポイントです。 12月にリリースしたForm Appも、別々のサービスを契約せずにNewt上のワンスペースで完結する、という思想で機能をリリースしました。



なるほど。各サービスの違いは使い勝手とか機能の差になっちゃうんですね。 業界特化とか、そういった観点で差別化しているようなヘッドレスCMSってありますか?

たとえば、 Shopify みたいな、ECに特化したやり方とかはあるのかもしれないです。 でも、そういう業界特化のポジションを見つけることができているヘッドレスCMSはまだあんまりないのかも。



機能だけの勝負になっちゃうと、機能開発に投資した者勝ちみたいな印象で、 資金が限られている後発のスタートアップだと厳しいイメージなんですが、その辺はどう考えてますか?

エンタープライズ向けのCMSは、機能が充実している代わりに使いづらくて、非エンジニアにとってはペインポイントになっています。 CMS自体はエンジニアが使うツールなんですが、実際に記事を書いたりコンテンツを作るのは非エンジニアなので、 非エンジニアにとって使いやすいことは大事だし、ニーズがあると思っています。 Newtとしては、特に、ユーザーにとっての「驚き最小」を意識しています。



素人目線だと、独自の機能を作って他社と差を出していくのかなと思ったんですが、 それは逆で、むしろ「驚き最小」なんだ。

例えば、他社サービスと同じことを実現するのに特殊な仕様になっていると、 それが使いやすかったらイノベーションなのかもしれないですが、実際にはそういうことはほとんど起こらないので、 サービスとしてのコンテキストを大事にしつつ、基本はセオリー通りに作ることを意識しています。

◆プロダクト開発はデザイナーと二人三脚で取り組む

そのサービス開発の思想は、どこから生まれてきたんですか? 前職で上場を経験していると思うけど、その成功体験を基にしているとか?

うーん、そうではないですね。 おそらく、弊社デザイナーはサービスの使いやすさについて突き詰めて考える人なので、二人三脚で一緒に取り組んでいる中で影響を受けているのではないかという気がします。



非エンジニアが使いやすいサービスというのは、具体的にどういうことを考えているんですか?

単に見映えとかグラフィカルな部分だけではなくて、 エンジニア目線だと、機能を充実させてタブやボタンが増えていく、ということになりがちですが、 その気持ちをグッと堪えて、機能毎に優先度を付けて重要な機能に絞って表示し、重要でない機能は隠す、みたいなイメージです。

他にも、ヘッドレスCMSの競合だけでなく、Notionなど、 非エンジニアのユーザーもうまく獲得できているサービスを参考にして、デザイナーと日々議論を重ねています。



なるほど。機能を削ってしまうと不便が出るので、機能を削るのではなくて強弱をつけるということですか。
デザイナーがプロダクト開発に深く関わっているというのは、すごく新鮮なんですが、 Newtのプロダクト開発におけるデザイナーの役割についてもう少し教えてください。

弊社のデザイナーはWeb制作と、プロダクト開発(プロダクトデザイン)の経験を持っています。 特に、ヘッドレスCMSのサービスを考える上では、Web制作の実務知識も必要で、 デザイナーなんですが、通常PdMが担当するような機能の取捨選択を決める役割も担っています。



一般的にデザイナーと聞くと、Web制作とかコンテンツを作っているデザイナーのイメージが強かったんですが、 サービスのデザインについてもデザイナーという職種に分類されるんですね。 同じデザイナーという職種でも、必要なスキルセットが全く違うので不思議ですね。

そうですね。
プロダクト開発に強いデザイナーは、あんまり数が多くないのかもしれません。
Newtでも、プロダクトデザイナーとコミュニケーションデザイナーで職種を分けて募集しています。

広く学びながら突き進んでいく

◆可能な限り「大きく解く」

ここから、実務寄りの話も聞かせてください。 エンジニアがまだ1人2人しかいない中で、サービス全体を開発するっていうのは、 全てを作らなきゃいけないのは想像はできるけど、実際やってみてどうですか?

やっぱり広いです。元々前職ではフロントエンドもバックエンドも書いていて、それは一緒なんですが、 さらにその下のレイヤーのSREやセキュリティ、サポートやSDKもやらなくちゃいけません。 やったことない分野に関しては、都度都度勉強しながら作っています。しかも、当然間違えられません。 めんどくさくもあるけど、新鮮だから面白くもあります。



最近伸びているベンチャーとかが、スタートアップのCTO経験者を積極的に採用している理由がわかった気がします。 スタートアップでCTOをやると、必然的に実務の中でフルスタックなことをやるので、説得力がありますね。 実際に開発を進める上で、特に気をつけてることはありますか?

可能な限り「大きく解く」ことを意識してます。 対象機能に絞って工数をかけずに開発や修正ができるのは大事だけど、それが積み重なると全体が直しにくくなるシステムになるイメージがあり、 そもそも全体の処理が変にならないように設計することが理想です。
例えばデータの管理だと、データの入稿・保存・取得の機能があります。 データ取得のリクエストがくるときに、この機能だけを考えるのは簡単ですが、前の段階の処理との不整合が起きないように、全体のデータの流れを踏まえた上で仕様を決定します。
こうすると、軽微な機能開発なのに想定よりも規模の大きな開発になってしまうことはありますが、2倍の工数で10倍ぐらい良いシステムになれば、最終的にはコスパがよいのかなと思っています。



機能をモジュールに分けて開発する、みたいなことはよく言われていますが、そこからさらに発展してるということですか?

機能ごとのアップデートはすぐにできるけど、そもそも機能の分け方がよくない、みたいな話なのかもしれません。 そういう場合に、機能の分け方から作り直すイメージです。

◆自分のエンジニア能力が低かったら自分の品質で止まっちゃう

プロダクトマネージャーのようなマネージャーが気にすることと、CTOとして気にすることって違いはありますか?

あんまり違いはないんじゃないかと思います。 ただ、なんだかんだ会社の成長とか戦略を考える部分は、CTOの方が多い気がします。



経営とか戦略って、普段どうやって勉強してるんですか?

オンライン学習が好きなので、MOOC(Massive Open Online Course)とか、オンラインで受講できて王道そうな講座を受けるって感じです。
Business Strategy from Wharton: Competitive Advantageとか。プロダクトの戦略に限らず、一般的なビジネス戦略の考え方から勉強しています。
プロダクトの戦略については、Stanfordのオンライン講座を受講したりとかですね。



エンジニアと違わないと言いつつ、なんだかんだCTOとして色々やってるんですね。色々やってる中で、今一番足りないと思ってるスキルはどういうところですか?

あー、経営面はCEOがいるから自分は役割としてはあくまでもサブなので、やっぱりエンジニアとしての能力を伸ばしていきたいと思ってます。
もう少し人が増えてきたら、チームの開発方針を決めたりとかコードレビューとか、自分以外の人もある程度のクォリティで開発を進められるようにしないといけないと思います。
まだ少人数の会社のCTOなので、自分のエンジニア能力が低かったら自分の品質で止まっちゃうから、頑張らないといけない。



なるほど。最後になりますが、キャリアの中で一度スタートアップで上場を経験していて成功体験なのかなと思うんですが、何か今に生きていることってありますか?

エンジニアの責任と裁量の広さ、プロダクトファーストの思想、年齢や立場を気にせずフラットにディスカッションするスタイルは前の会社で衝撃を受けた部分で、このあたりは今も生きています。

終わりに

対談は以上です。
目黒さん、忙しい中時間を取ってもらってありがとうございました。今度お礼をさせてください。
一番心に残ったのが、「自分のエンジニア能力が低かったら自分の品質で止まっちゃう」って言葉です。
マネジメントスタイルを端的に表現してるとともに、かっこいいなと思いました。 自分は漫画のキングダムが好きなんですが、組織の中で将軍が一番強いっていうのは憧れます。
BigTechやイーロン・マスクをはじめとして、マネジメントがちゃんと技術的にも強いっていうスタイルにはすごく共感します。
エンジニアの実務って結構泥臭くて視野が狭くなりがちで、ビジョナリーとテッキーを両立させるのがすごく難しいと思いますが、2023年も応援しています!